キャプション・解説を読み解く
展示のキャプションに書いてある内容、専門用語がちらほら入っているのもあって読んでもよく分からないというご意見を目にしました。そうですね…確かに。刀剣用語は「事例を見て覚えたもん勝ち」なところがありまして、本だけ読んでもイメージしにくい傾向があります。
が、展示で実物を見ているのにキャプションに書いてあることが分からん!というのはもったいないので、少しずつ読めるようになりたいものです。
最終的には入門書の各部分を読んでその都度理解して行くしかないのですが、個々の用語解説をしてもおそらく頭に入らないと思いますので、実際に展示されていた時のキャプションとそれを補足するウェブ上のデータベースの解説文を読み解く実例を挙げることにしました。
こんな感じで情報を抜き出して、自分が見た印象と比較しつつ個々の用語については入門書を見て語句を調べて行くと、少しずつ展示の見るべきポイントが見えてくるのではないでしょうか。
例に挙げるのは、京都国立博物館「刀剣を楽しむ」に展示された「国宝 太刀銘則国」です。
なぜこれにしたかと言うと、下に引用したキャプションで太刀そのものの特徴についての記述が一番多かったからです。あと、私が個人的に気に入ってる一振だからです!
では行ってみましょう。
京都国立博物館 展示キャプション
Toggetter「【キャプション】京博 「刀剣を楽しむ」キャプション抜き書き【乱舞】」の2ページめより、孫引きさせていただきました。
1.刀の種別です。
2.作者と彼が属する流派の特徴についての解説です。
3.作られた時のサイズです。わざわざ書くということは、今は元のサイズではないということですね。
4.茎を短くしたことが書かれています。刀は根元から短くするのが鉄則です。
5.茎の端っこの方に銘が残っているので作者が断定できたという内容です。
6.刃文の種類とそれに関する特徴です。「のたれ」は緩やかなウェーブのこと。「浅くのたれた細直刃」は基本まっすぐな刃文の中に、ところどころかすかにウェーブがかかっているということです。小足、金筋は刀身に部分的に現れる特徴(働きと言います)の種類の名前です。
7.切先が小さいこと、反り(刀身のカーブ)の中心が真ん中より少し根元寄りになっていることを書いています。
8.茎を短くして最初に作られた時と全体の形が変わっているのに、変更後も美しいバランスになるように調整されているという話です。
e-国宝の解説
次に、同じ太刀の別の解説を読んでみましょう。
「e-国宝 太刀銘則国」
スペックはこの通りです。
鎬造、庵棟、鍛え小板目、刃文細直刃
刃長 74.7cm 反り 2.1cm
鎌倉時代・13世紀
以下が解説文。
1.茎を削ってサイズを短くしたこと、上のキャプションの4.と同じ内容です。
2.茎に銘が残っていること、上のキャプションの5.と同じ内容です。
3.全体の形のバランスについて。上のキャプションの7.と同じ内容です。
4.地鉄の質感・テクスチャについての詳細です。「小板目」はテクスチャの種類です。詳しくは入門書の解説をごらんください。
5.上の3と同じ全体の形のバランスについて。
6.「細直刃」は刃文の種類です。詳しくは入門書の刃文の解説をごらんください。
7.刀身に現れる特徴です。「沸」はキラキラした光の粒のように見えます。詳しくは入門書の解説をごらんください。
二つの内容をまとめるとこうなります
では、以上の二つの解説を読んで分かったことをまとめてみましょう。
太字にしたところは専門用語なので、入門書の当該項目を読んだりググったりして調べてください。
名前:太刀銘則国
作られた時代:鎌倉時代・13世紀
作られた地域:京都
作者:則国(粟田口派)
サイズ:刃長 74.7cm 反り 2.1cm
刀の種類:太刀
形の特徴:鎬造、庵棟、小切先、反りの中心はやや中心より根元寄り
地鉄の鍛え方・テクスチャ:とても目の細かい小板目
刃文:細直刃をベースにかすかにウェーブのかかった(のたれた)ところがある。刃文の近くに「沸」という微粒子の粒があり、金筋(沸が繋がって線状になったもの)になっているところもある。小足も見られる。
備考:
・約90cm→74.7cmに磨り上げて短くした形跡がある。
・短くなっても全体のバランスは美しいまま。
・形は鎌倉時代初期のスタイル。
・地鉄と刃文に京都の刀らしい特徴を備えている。
作者と刀派について:
・京都を中心に活躍した「粟田口派」の一人。
・後鳥羽上皇の「御番鍛冶」をつとめた国友の子。
・粟田口派のカラーを確立した国吉・吉光の父/師匠。
いかがでしょうか。ちょっぴりこの太刀のことが分かったような気がしたら嬉しいです。
ゲームをしている人向けに小ネタを最後に付け加えるなら、この太刀の作者・則国の息子・国吉が鳴狐の作者、弟子の吉光が一期一振など藤四郎兄弟の作者です。と書くと、若干親しみやすくなるでしょうか。
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