「五頭の虎」の話
ちょっと今回は刀から外れて言葉の話を。
五虎退という名前は「足利義満の時代に明への使者として中国に渡った役人が五頭の虎に襲われたところ、この短刀で追い払った」という由来に基づくとされています。
ゲームの五虎退はこのストーリーは作り話だと言っていますが、実際のところは、やっぱり作り話なんだろうと思います。
虎は群れを作らずに数十キロの縄張りの中で単独で生活する生き物なので、五頭も同時に現れることはないんですよね。もし現れたとしたら、五虎退が連れているような子虎でしょう。
ところで、なんで「五頭」なんだろう?って思いませんか。
中国の文学作品を読んでいると、虎に関する言葉は一頭かもしくは五頭なのではないかという感じで虎と来れば五です。現代中国語でも五はウー(wu)虎はフー(hu)、同じ母音を持つ音で熟語にしやすいです。
「三国志」という歴史書を元ネタにした明の時代(15世紀)の歴史小説に「三国志演義」という作品があります。この作品は宋の時代(10世紀)から大衆演芸で講談として語り継がれてきたストーリーを小説にまとめたものです。15世紀というと日本ではちょうど室町時代ですね。
この中で蜀という国に仕えた将軍たちの中で、特に武勇に優れた五人のことを「五虎大将軍」と別格扱いにして呼んだという話が出てきます。
同じ頃にやはり講談から小説にまとめられた「水滸伝」でも、梁山泊に属する英雄たちの中で、武人のトップ5人が同じく「五虎大将軍」という肩書きを与えられています。
当時の中国の庶民感覚では、武勇に優れた人物を5人集めて五虎大将軍というユニットを組ませるのが格好良いと思ったのかもしれません。
五虎退という名前をつけた人はいつの誰かは分かっていませんが、この「五虎大将軍」のことを知っていて、虎と呼ばれるような猛将たち五人が相手でも負けないほどのすばらしい短刀であるというイメージも含めて五虎退の名を付けたのかなーと想像すると、なかなか楽しいものがあります。
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