刀の材料、鉄の話 その1 玉鋼
先日、最近日本刀に興味を持った方数人とお茶しつつお話しする機会がありまして。
玉鋼の話になったところ、「玉鋼ってもう作られてないんじゃないの?今刀を作る時はどうしてるの?」という発言が飛び出して「いや、作ってますって(焦」と少し驚きました。
玉鋼が既に失われた幻の鉱物とか伝説のオリハルコンみたいなどこぞのRPGっぽい勘違いをされてたらどうしよう、と心配になったので小ネタにすることにしました。
えー、玉鋼(たまはがね)。↓こんな物です。光が当たるとキラキラしてすごくきれいです。刀剣関係の博物館に行くとこれだけを買うことができます。
これをそのままトンカンすると刀ができるのではなく、これを熱して叩いてフレーク状にしたものを選別して、それを集めて熱して伸ばして何回も折り曲げて…と、かなり複雑な工程を経て刀ができるのですが、これが原材料であることは変わりません。
この玉鋼、そのまま山の中に埋まっているのではなくて砂鉄から「たたら製鉄」という製鉄の工程を経てできるものです。
たたら製鉄というのは日本の伝統的な製鉄方法で、まとまった鉄鉱石が鉱脈としてゴロゴロ埋まっている環境に恵まれなかった日本で発達した手法です。
ざっくり言いますと、土で大きな四角い囲いを作り、そこに砂鉄と木炭をどさどさ放り込み3日間火を絶やすことなく熱し続けます。
結果、囲いの中で砂鉄が溶けてどろどろになったものができます。
で、囲いに穴を開けて、どろどろになったもの(すごく熱い)が流れ出すまま外に出します。このどろどろは不純物が混じったものなので流して出してしまいます。
その後、囲いを壊して中でできている鉄の塊を出します。この鉄の塊を叩いて割り、その中から刃物を作るのに適した部分を選別した刃物作り用の鉄、それが玉鋼というわけ。
映画「もののけ姫」で行われていた鉄作りがこの方法です。
この仕組みについて知りたい人は 日本刀の作り方の本 で紹介した書籍を読んでみてください。
この手法で作られた鉄のことを「和鋼」とか「和鉄」と言います。和式の鉄ですね。
それに対して、近代に西洋の製鉄技術が入って来て、その手法で作られた鉄は西洋式の鉄なので「洋鉄」と言います。
和鉄と洋鉄は作り方が違うので、成分も違うようです。このあたりについては『日本刀の科学 武器としての合理性と機能美に科学で迫る』(サイエンス・アイ新書) のようなちょっと理系な書籍で詳しく説明されているので興味のある方はそちらでどうぞ。
現在、製鉄所と言われているところで作られているのは洋鉄。洋鉄は玉鋼と比べると日本刀を作るのに向いていないとのこと。
なので、日本刀を作る刀工の方たちの材料を確保するために玉鋼を作る施設が島根県にあります。「日刀保たたら」というたたら製鉄の施設です。毎年冬に操業しており、たたら製鉄に関する書籍には作業をしている写真が収録されています。
この施設が実際に操業して鉄を作っているところは、事業母体である日本刀剣美術保存協会の許可がないと見られませんが、近くには「奥出雲たたらと刀剣館」という資料館があり、そちらでたたら製鉄の詳しい展示が見られるそうです。
玉鋼の話でした。次の鉄の話は「南蛮鉄」について小ネタを書きたいと思います。
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