ガイコツの絵柄「野晒し」について

鍔や目貫など、刀装具の鑑賞の機会が増えてくると「この絵柄、別の作品でも見たなぁ」ということが増えて来ます。その中のひとつ「野晒し」というテーマについて。

「野晒し」は、人気のない草むらなどに放置された人骨、しゃれこうべを言います。古典落語のタイトルにもなっていますので、落語ファンの方には野晒し=しゃれこうべ、はもはや常識ですね。

刀装具の画題として見た場合、目貫は頭蓋骨と他の骨、鍔・小柄は野山の草と散らばった人骨、もしくは野山の片隅に建てられた五輪塔(下の写真をご覧ください)と人骨という絵柄になります。

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stonepapa – 2006/04/17本人撮影, CC 表示 3.0, リンクによる

現代人の私たちはこうしたドクロモチーフをゴスロリやパンクなどファッション・エンタメの分野で見慣れているせいか、素直に「格好良い」と感じているように思います。それはそれでひとつの鑑賞の切り口としてOKだと思います。

ただ、そうした西洋由来の格好良さではない、日本のモチーフとしての「野晒し」も知ってると、もっと楽しめるかもなーと思ったので、ちょこっと小話にお付き合いいただけたらと思います。

仏教絵画としての「野晒し」

はい、いきなり大上段で来ましたね。ガチ仏教絵画ではないかと。

「九相図」というジャンルがありまして、これは人間が死んでから死体が朽ちる経過を九つの段階に分けて描いたもの、現世の肉体は不浄であり無常なものと知る修行でもあります。アフガニスタンや新疆ウイグル自治区、中国にも同様のテーマの作品が存在しますが、日本では、小野小町や檀林皇后など高貴な美女が亡くなり、その死体が見るも無惨な状態になる様子が描かれてきました。

特に檀林皇后(平安時代・嵯峨天皇の皇后)は、深く仏教に帰依し「諸行無常」を身をもって示すために自分の死後遺体を埋葬せず辻に捨てるよう遺言したという伝説があり、皇后の遺体が遺棄された場所が現在の帷子ノ辻(京都市右京区)と言われています。

Kusozu; the death of a noble lady and the decay of her body. Wellcome L0070295.jpg
https://wellcomeimages.org/indexplus/obf_images/e4/39/f80fae429c6055c4d0228ce76d58.jpg Gallery: https://wellcomeimages.org/indexplus/image/L0070295.html Wellcome Collection gallery (2018-03-30): https://wellcomecollection.org/works/aj4yxqkz CC-BY-4.0, CC 表示 4.0, リンクによる

こちらが八段階目の「骨相」を描いたシーン。死体が腐乱していく様子を描いた「壊相(えそう)」や「膿爛相(のうらんそう)」はグロいので、画像は貼らないでおきますね。九段階目の「焼相(しょうそう)」は骨が焼かれて灰になり、五輪塔が残ります。

鍔や小柄に描かれた、しゃれこうべなどの人骨+五輪塔というモチーフは、九相図の八相と九相を合体させた「ダイジェスト版九相図」のように思えます。

刀剣には梵字や倶利伽羅竜、さまざまな仏のシンボルを彫刻することが行われてきました。仏の加護を得たい気持ちからだと思われますが、そうした加護を願いつつも、どんな人間も死ねば結局は骨になるのだという「諸行無常」を表すモチーフを身につけていた死生観や精神のありようについて、想像を巡らせてみるのも面白いのではないでしょうか。

ちょい悪イケメンのトレードマーク「野晒し」

真面目な話だけだとつまらないので、庶民的な野晒しモチーフへの愛についても。
歌舞伎に「野晒悟助(のざらしごすけ)」という演目があります。主人公の野晒悟助は、歌川国芳の「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」をはじめ、さまざまな浮世絵師によって描かれた人気キャラクターです。

一休禅師の弟子でありながら暴れん坊であったために俗世に戻り、葬儀屋をしながら侠客のようなことをやっています。つまり喧嘩が強くて格好良いはみ出しもの。お話の中では、二人のヒロインに惚れられて困っちゃう!という役柄。

現代社会では侠客・アウトローというとすぐにヤクザや半グレと思われてしまうのですが、そういう雰囲気ではありません。どちらかと言うと「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」ストリート系ではないでしょうか。
葬儀屋の彼が着ている着物がドクロ柄であることから、野晒しというあだ名がついているわけです。
人気キャラクターですので、彼のファンは野晒しモチーフのアイテムを持ちたがったでしょうね。いつの時代も推しのグッズは良いものです。

そんなことを考えると、毎年売り出される若い男性向け浴衣のドクロ柄はこっちがルーツっぽいですね(笑)

江戸時代の武士になると剣術は習っていたとしても切り合いなんてしませんし、江戸や京、大坂など在住であれば流行に敏感なシティボーイ(昭和臭がすごい!)です。
自分の普段使いの拵はオシャレにしたいなぁと思った場合、昔の武士のような「諸行無常」を気取って、実は推しキャラモチーフでもある野晒しで決める…なんてこともあったんじゃないかなぁと想像する次第です。

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