刀派・刀工名・号について

以前、 刀の名前のパターン3つ の記事で「特別な名前」という書き方をしました。
今回は、この特別な名前「号」も含めて刀派・刀工名・号の関係について書きたいと思います。
どうも刀工名と、ある刀固有の名前「号」をごっちゃにしてしまうことがあるようなので一度整理しといた方が良いんじゃないかと。

と言いつつ私事から始めます。
私が小学生だった頃、我が家のマイカーはホンダの「アコード」でした。アコードは1976年に発売された初代から現行の9代目まで何タイプも発売されているホンダの代表的な車種です。
我が家にあったのは、1985年から1989年にかけて販売されていた3代目アコードでした。

↓こんな車です。

1985Ca5.JPG
パブリック・ドメイン, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=318729

ヘッドライトがパカパカ開閉する車だったので、特に車に詳しくもなかった(今も詳しくない)私は、この車のことを「パカパカ」と呼んでおりました。ネーミングがアホ丸出しなのには目をつぶってください。

この車を指し示す要素を挙げてみましょう。

メーカー:ホンダ
車種:3代目アコード
愛称:パカパカ
愛称をつけた人:私

ホンダというメーカーから発売された3代目アコード、当然のようにうちの家族の他にも乗っていた人はたくさんいらっしゃったと思います。ただ「パカパカ」というアホな名前をつけられていたのは、おそらく我が家のアコードだけだったのではないでしょうか。
同じ名前で呼ばれる物たちの中で、ある固有の物を表す愛称というわけですね。

これと似た習慣が茶道具における「銘」です。
ある一定ランク以上の道具には、その姿形や表面の絵柄などからオリジナルの名前を付けます。
お茶席のラストにある道具拝見では、その席に使われた道具の銘、作者などを拝聴する場が設けられます。そこで「誰それの作で銘はこれこれです」という言葉を聞いて、道具を選ばれた方のセンスや教養を感じ取ります。

刀も、よくできた物や家宝など由緒のある物、持ち主が特別な愛着を持った物には、その物固有の名前をつけます。この名前が「号」です。
刀を拝見する場合、それが号を持つほどの刀であれば今の持ち主の方に号の由来を拝聴するシーンもあるでしょう。こうした拝見の作法や、号でそれを名付けた人のセンスや教養が見えるのは茶道具と同じですね。

先ほどのアコードと同じように、ある刀を指し示す要素を挙げてみましょう。

刀派:関兼定
刀工名:2代目兼定(通称・之定)
号:歌仙
号をつけた人:細川忠興

関兼定という刀工集団に所属していた2代目兼定が作った刀剣は他にもいくつもあって、それらはみんな「兼定」です。打刀もあれば脇差も短刀、槍もあります。号を持たない2代目兼定の作品は全て「之定」や「2代目兼定」などと呼ばれます。
たくさんある2代目兼定の作品の中で、細川忠興が「歌仙」という号をつけて、号+刀工名=「歌仙兼定」という通称を持つようになったのは一振だけ。それでもって他と区別するわけです。

正真正銘の武器なんだけど、茶道具のように固有の名前をつけてもらえる刀というものの不思議な世界が垣間見えるのが刀の号です。

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