銘と書体
今回は刀の茎に刻まれている「銘」の話を少し。
刀の銘には作った刀工の名前を入れたものや、持ち主や依頼主の名前を入れたもの、作った日付を入れたもの、試し切りをしたらどれくらい切れたかの記録など、いくつかの種類があります。
とても古いものや磨り上げて銘が消えてしまったもの以外の刀には大体刀工の銘が入っているので、それを見るのも楽しいものですが、見ていくうちに面白いことに気付きます。
この画像、美濃の刀工・二代兼定の銘の写真からトレスしたものです。これを初見で「兼定」と読める人はおそらく書道をしていた方か国文科で史料を読むのに慣れた方ではないかと。
まず一文字目の「兼」ですが、ぱっと見は「魚」にしか見えません。でも兼の異体字なんだそうで。この兼は他の美濃の兼の字を持つ刀工も使っているので、慣れればすぐにわかります。
そして二文字目の「定」も、うかんむりの下に「之」の字のようなものを書いています。この「之の字のような定」が特徴的なことから、二代兼定のことを「之定」と呼ぶようになったとのこと。
以前、鑑定会の解説で「之定はあんまり字が上手くないから、字のきれいな銘が入ってるものはニセモノ」という話を聞き、そんなもんかなぁと思っていたのですが、何振か見てみると小学生男子の書くようなごりっとした字体です。確かに上手くはない…。
銘は筆で書くのではなく銘切り用のタガネをつかって彫るのですが、きれいな銘を切るために現代の刀工も習字の練習をすると言いますので、之定は字を書くことにかけてはぶきっちょな人だったのかもしれません。
他に、虎徹の銘も時期によって書体や形が変化しています。
「長曽弥興里」の「興」の字を略字形の「奥」のような字にしたもの。
「虎徹」の「虎」の字の最後のハネのところをにょろにょろと上に伸ばしたもの。
「虎」の字を略字形の「乕」の字にしたもの。
それぞれ「奥里」「はねとら」「はことら」など、スタイル名がついており、作刀年代の見分けに使われます。
刀ネコの澤田さんのブログで「はねとら」と「はことら」の解説記事がありますので、それぞれがどんな銘なのか見てみたい方はこちらをどうぞ。
悠樂菴倶楽部「日本刀の世界」
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